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2 仕事がない、でも雑用は永遠にある [息子と暮らせば]



仕事がない、でも雑用は永遠にある

 去年の3月の28日に俺の仕事はなくなってしまった。息子は高校を卒業した。2階にひっそりいる。どうするのかも何も聞いていない。予備校の判定では全てE判定で、当然どこも行くところがなかったことだけは承知している。だから当然どうしたいのかを言わなければならない、その手続を無視してひっそり2階にいる。仕方なく昼食は2人分をつくり無言で喰う毎日が始まった。しかし「いただきます、ごちそうさま」をわたしが唱えると、息子も和するようになった。何故家にいるかを聞くのも面倒なのでいつか言うだろうと放置してきた。それがいまだに続いている。
 俺はなるべく外に出て今までできなかった雑用に精を出した。特に圧巻だったのは、死んだ母の残した梅酒の瓶群だ。瓶といっても昔、味付け海苔が入っていた徳用瓶だ。それが狭い倉庫に50個近く、20年以上の代物である。それも実が入っているから明らかにカビになっているものや濁っているものや様々だ。外から分かるものは柿や栗の根の近くに穴を掘って放り込む。液体状のものは一応味見してグレードを決めていく。よくそんな気が起こると思いの方もおられると思いますが、アルコールが入っているのですぞ、アルコールです。メチールなら恐いが、エチールです。わたしには目がないアルコールなのです。昔、「追跡者」という映画がありまして、その追跡者が、逃亡者が山小屋に残したと思われる缶詰に指を突っ込んで口に含むのです。何をしているかお分かりですか?その味が新鮮かどうかで、逃亡者がいつここにいたのかを判断するのです。
 そんな気分で梅酒の鑑定を始めました。渋めのものを穴に流し込み、濁った味のよくないものも捨てていきます。すると味のよいものは透明度の高いものに落ち着いてきたのです。透明度のよいものを全て味見してヴィンテージの品定めをして新しい瓶に入れ直して書き込む。かなりの数量、1升瓶にして10本近くの飲める梅酒となった。その内ヴィンテージは3本ぐらいだった。アルコールの入っていないシロップと記してあったものは何ともいえないいい味だが梅酒ではない。甘いのは好きではないが、いいものもある。しかし基本的には甘いものは飲まないので、お裾分けをしたりしたがまだある。その後が大変なのだ、瓶の洗浄だ。すぐにやっても綺麗にならないので一ヶ月ばかり水を張って置いておく。しかし、蚊が湧くまでには処理をしなくてはならない。それをしっかりやり終えた後、倉庫の棚に並べておくことにした。全然要らないのだが、捨てようがないのだ。
 鮒ずしの樽やもう一つ樽があるが、20年近く放置してある。それらは少し臭うものとして存在感がある景色の一部として封印している。有り体に言えば処理するのが恐いのである、何が飛び出すか分からないからだ、しゃれこうべが出てきても悪霊が飛び出しても何の不思議もない。であるから魑魅魍魎を封印しているのである。
人間という厄介なもの、何が一番厄介かといえばゴミ塵芥排泄物だ。家庭ゴミや排泄物は回収してくれたり下水道に流すことができる。もちろん金はかかる、待ったのかからない課金である。ところが大型で、一般のゴミに出せないものが家の中に堆積していく。只のときなら何とか出していたが、それらが有料化されると家の中がゴミ捨て場と化してしまう。このような世の中になるとゴミに金をかける余裕はなくなっていく。捨てることもできず、家二軒あれば一軒は大型ゴミで満杯になってしまう。どれだけ無駄なものを買っていたかだ。過去の亡霊と一緒に暮らしているようなものだ。処分したいのは山々だがそんなものに金を使う余裕はない。それには手をつけない。
 手がつけられるのは敷地内にあるあまり大きくない木々。庭を構成したマツや檜やその他諸々の木は、10年手を入れなかったので、手のつけられない大木と化した。そしてマツは枯れてしまった。倒れれば屋根を壊してしまうだろう。不安材料ばかりで安心材料は何ひとつない。世界の経済状況をまさに先取りしているのが我が家の姿である。
 下を見れば蔓ニチニチソウが一草独裁、上を見れば藤、三つ葉アケビ、テッセンの三つ巴の戦い。道路に面した藤は切っても切っても雨後にのびる。道路に散らばった桐の花を掃き集めたり、側溝を掃除したり、やることはいっぱいある。不要な檜の古木を切ったり、楠の枝を切ったり暑くなるまでは殆ど外回りの作業をする。暑くなってくると雑草を取り除いたり、蔓ニチニチソウ支配の一部を奪還したりする。こういう作業はやればやるだけ結果として表れるので心地よい達成感を味わうことができる。フラストレーションが溜まらない。俺には単純作業が向いているのかも知れない。しかし暑すぎると何もする気にならない。そんなときは、本でも読むかということになるが、二日酔いか、呆けた頭だから読んでも何を読んだか覚えていない。そうこうするうちに夏も終わっていきそうな気配になる。 


タグ:梅酒
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