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3  オヤジとは? [息子と暮らせば]

オヤジとは?

 相変わらず昼飯は俺がつくり無言でひたすら食う。「頂きます、ごちそうさま」の繰り返しだ。いつの間にか小生が作り、息子が後かたづけをする構図となる。
 ところが外からはうまくいっているようにみえる父子関係が根底から崩れた時期がある。一向に息子が何も言わずに家に居座っている。息子が何か言うだろうと思って期待していたがいわない。5月になっていたろうか、4月の終わり頃だろうか、夕食のとき息子におまえ何で家にいるんだと聞く。すると息子は憎々しげに「おまえと一緒や」と抜かしたのである。わたしは全くそんな言葉が出てくるとは夢にも思っていなかったので、二の句も継げず言葉を失ってしまった。同席していた娘もかみさんも何も言わなかった。それもショックだった。今までそんな兆候もなくここまで来たので予想だにしないことだった。
 ねじめ正一が父親のことを話しているのを聞いたことがある。彼が小学生のときだろうか、何でうちは貧乏なのかと父親に聞いたという。するといきなり体をつかまれ腰払いのような技で庭先に飛ばされたという。彼はいう、オヤジはこういうことを言われたらこうしてやるんだということを決めていたのだと感じたと・・・。それともう一つは彼が26歳ぐらいの時、同人の何人かをオヤジが通っている新宿ゴールデン街の飲み屋に連れて行った。そこで、おいと彼を呼びかけるオヤジがいていきなり手を握り1万円札を握らせて姿を消したという。これもオヤジが一度はやりたい、息子に対する「決めごと」だったのだろうと、ねじめ正一は語る。わたしにはそんなシナリオなどない。白紙のシナリオが宙を舞うだけとなる、あまりにも悲しい。俺は2日ほど昼飯を作らなかった。ひっそりしていた二階が騒々しい。やる気を無くした、くそったれといっているようなものである。通過儀礼であるオヤジへの反抗が今頃あらわれるとは、あまりにも遅いが、通過儀礼はあった方がよい。俺など中学生にはあったが、暴言は吐かなかった。俺はオヤジにどつかれてどつかれて育った。悪いことをしたら仕方のないことだが、理不尽に暴力を振るわれることが多かった。中学の終わりか、高校の始めに同じことが始まったとき「いいかげんせいよ」とオヤジの体を捕まえて怒鳴り返すとそれ以降暴力沙汰は全くなくなった。暴力を受けて育つと大人になって我が子を虐待する傾向があるとまことしやかに囁かれるが、わたしは一度も家族を殴ったことはない。しかし、いつも頭ごなしに言う癖が抜けきらず、非難ごうごうだ、面目ない。
 2日ほど経って昼飯をつくり、二階に食うかと呼びかけると素直に降りてきた。それから、また「頂きます、ごちそうさま」の昼飯が3月まで続くことになる。


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