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石のつぶやき645 小熊英二は「対話を」というが [平成阿房伝]

4月25日(木)13  朝日新聞朝刊

 あすを探る     小熊英二   選挙に頼れない今、対話を

 7月の参院選で自民党の勝利が確実視されている。今回は自民党が大敗した2007年参院選の改選である。自民党が現有議席より増えるのが「勝利」ならそれはほぼ確実だ。
 また、自民党以外に「勝つ」政党がない。民主党が「勝つ」可能性は短期的には低い。地方に足場のない維新や「みんな」も同様だ。その他の政党はいうまでもない。
 昨年の総選挙で、原発が争点にならなかったという意見がある。しかし憲法もTPP(環太平洋経済連携協定)も、雇用も外交も、恐らく参院選の結果を左右しない。たとえ国債が暴落しても、ほかに「勝つ」政党がない以上、自民党は「勝つ」だろう。もちろん自民党が「大勝」するか否かで政治動向は変わるから、参院選の結果を変える努力は重要だが、当面は動かし難い前提である。
 しかし一方で、自民党の固定支持基盤は、高齢化と産業構造の変化で衰退している。昨年の総選挙で自民党の昨年の総選挙で自民党の比例区得票率は約3割で、09年より得票数が減った。そして実は、民主党から自民党にへ投票先を変えた人は少ない。09年に民主党に入れた人が、昨年には民主・維新・未来・棄権などに分散したため、自民党が相対的に浮上しただけだ。
 つまり今の日本では、自民党そのものが衰退しても、どれほど問題が山積しても、自民党が「勝つ」。社会は急激に変化しているのに、議会にその変化が反映しない。これは事実上、議会制の機能不全である。
 これは選挙制度の問題でもあるが、「未来が見えない」という民意の表れでもある。図式的にいえば、「昔の日本を取り戻したい」という3割の民意が、衰えつつも自民党を支持している。残りの7割は、昔のやり方を変える必要は感じているが方向性が見えずに、自民党を含めた多数の投票先に分散しているのだ。
 具体的に言おう。憲法・原発・TPP・消費税の賛否の組み合わせは16通りだ。7割の票が16に分散すれば「昔のやり方を踏襲してほしい」という3割の票が確実に勝つ。その3割も、それでいいと信じているわけではなく、「自分が逃げ切るまでは昔のやり方で」「ほかに未来が見えないから」という人が多いだろう。いわば「懐メロを歌いながら沈んでいる」のが現状だ。今はアベノミクスの「小春日和」だが、長く続くと信じている人は多くあるまい。
 ならばどうするか。7割が「改革」や「反自民」で結集すればいいのか。09年の総選挙がそれだった。だが教訓は、めざすべき未来像の共有がない「反自民」連合は、迷走と分裂に終わりかねないことだった。
 それなら理想の未来像を示してくれる、名政治家や超エリートの出現を期待すべきか。その究極の夢が古代ギリシアの哲人王だが、実現したことはない。そうした「お任せ」の姿勢からは、僭主しか出てこない。古今の思想は、しょせん不完全である個々の人間を超える知恵と合意は、対話からしか生まれないことを説いている。民主主義は、哲人王へのあきらめから出発しているのだ。
 参院選を過ぎれば3年は国政選挙がない。その3年のうちに、憲法改正の国民投票がありうる。雇用や原発や社会保障などの問題も問われるだろう。つまり今後数年の日本は、選挙という回路に頼れない状態で、共有できる未来像を各人が考え、議論せねばならない時期に入る。
 これは危機だが、好機でもある。覚悟を決め、思考停止と「お任せ」を脱し、政治を、社会を、未来を考えてみよう。家庭で職場で、学校で語りあってみよう。性急に批判するより、相手の話をよく聞き、自分で動いてみよう。一見遠回りだがこれが議会制や民主主義を蘇生させる最も効果的な方法である。そして実は、選挙だけに頼った政治が行き詰まり、人々に不安と孤独感が募っている今こそ「本当はそんな対話がしたい」という機運が、かつてないほど潜在的に高まっているはずだ。
 (おぐま・えいじ  62年生まれ。慶応大学教授・歴史社会学。『社会を変えるには』 『1968』など)
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