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石のつぶやき710 高橋 ヨシキさん「臭いものにフタ」 [平成阿房伝]

9月21日(土)13 朝日新聞  耕論    不良図書と呼ばれて
 過激な表現って何ですか。それって誰が決めるんですか--。松江市教育委員会の要請による「はだしのゲン」の閲覧規制は解かれたが、解かれず残った疑問も多い。どう考えますか、あなたなら。

    「臭いものにフタ」よほど有害 デザイナー、ライター
高橋 ヨシキさん


 「はだしのゲン」の描写は、問題があるどころかもっと残酷でも構わないと思います。おおぴっらに人を殺せる立場に置かれた時、人間はどうなるか。野蛮で残虐なことをなし得る本性を「過激だ」なんて理由で隠そうとするのは、人は排泄しないと教えるのと同じくらい、愚かしく危険です。

 ムラ社会の論理
だいたい、「過激な表現は子どもを傷つける」とか言ってますけど、子どもにとって本当に有害なのはどっちなんだって話ですよ。自分の思想信条と相いれない本だから気にくわない、図書館から撤去しろとクレームをつける大人。
 「臭いものにはフタ」とばかりに、納得のいく説明もせずに閲覧制限を「お願い」する大人。それに唯々諾々と従う大人。そんな大人が形作る現在の日本社会のありようの方が、はるかに有害です。そういう日本的なムラ社会の論理にはじかれ、傷つけられ、生きる世界を狭められて、自ら命を絶つ子どもが大勢いるんだから。
 今、東京でのオリンピック開催を批判すると非国民扱いです。ムラ祭でみんな気持ちよくなっているんだから邪魔するな、邪魔すると村八分だぞと。もちろんそんなこと、言語化されませんよ。言葉じゃなくて空気で人を動かす。それがムラ社会ですから。同調圧力というか相互監視というか、オリンピックであれだけ盛り上がっているのは、「みんな一緒」を確認せんがためでしょう。
 何にでも「国民的」をつけたがるのも、その一環です。AKB48は「国民的アイドル」、宮崎監督作品は「国民的アニメ」。宮崎監督が引退宣言すると「宮崎アニメ、あなたのベストは?」なんて聞いて回る。国民なら見ていて当たり前ってことですか?冗談じゃないですよ。「国民的」にみんなが無批判に乗っかっていく風潮と、そんなヌルい状況を揺さぶるような表現を「過激だ」といって排除したがる風潮はコインの裏表で、それを支えているのは、本や映画を、「泣いた」「笑った」ではなく、「泣けた」「笑えた」と評するタイプの人たちです。
 彼らにとって表現は、自分が気持ちよくなるためのツールでしかない。映画「美女と野獣」を見て「泣けた」とか言うわけですよ。だけど自分が、野獣を「殺せ」と取り囲む側の人間かもしれないということには想像が及ばない。
 リンカーンの偉大さに感動しても、自分が、奴隷制を支持して黒人を人間と認めなかった大多数の側の人間だったかもしれないとは思わない。ナチス政権下でもフランスの恐怖政治の時代でも、それに異を唱えた人の偉大さを理解するためには、それ以外の人たちがいかに、いわゆる「凡庸な悪」に染まっていったかを理解しなければなりません。すぐれた表現とは、そういう多面的なものの見方を提示してくれるものです。なのに、常に自分が気持ちよくなれる側の視点に立って、「泣けた」。
 やっぱりバブルの頃からですよ、こんな堕落が始まったのは。広告会社主導で一連のうつろな映画やトレンディードラマが作られるようになり、見る側も消費者化して、俺たちが気持ちよくなれるような「商品」をよこせという考え方が浸透してくる。その傾向は、その後の不景気に後押しされてどんどん強まりました。
 
  低レベルな共犯
 さらに、世間の意向を過度に忖度することで成り立っているテレビ局が社用の映画業界に参入し、「製作委員会」方式で出資企業を集めて映画が作られるようになった結果、どこからもクレームがつかないことが最優先された、大人の鑑賞に堪えない「お子様ランチ」のような作品だらけになってしまいました。表現の質が下がれば観客のリテイラシーが下がり、それがさらなる質の低下を招く。お子様ランチを求める観客と、お子様ランチさえ出しておけば大丈夫とあぐらをかく作り手。そのレベルの低い共犯関係が社会にも染みだしてきた結果が、いまの「国民的」ムラ社会ののでしょう。
 状況は絶望的です。僕に言えるのは、せめて「多数派の論理」に振り回されないよう、「みんな一緒」を確認し合う状況からは距離をおき・・・・なんて、あまりに無意味で無力で、自分で言ってて泣けてきますけど。(聞き手・高橋純子)
 
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