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石のつぶやき1002 非国民、売国奴の練習は終わった [平成阿房伝]

7月7日(火)15  朝日新聞夕刊


(終わりと始まり)
    死にかけの三権分立 行政独裁への道、粛々と 池澤夏樹

 新国立競技場の建設費用を巡って国と都がぶつかっている。オリンピックを招致したのは都なんだからもっと負担を増やせと国は言い、都は根拠のない金は出せないと言う。

 そもそもは、きちんと予算を詰めないままあんなプランを採用したのが間違い。あの自転車乗りのヘルメットのような建物、大きすぎるところはまるで陸(おか)に上がった戦艦大和だ。その運命も戦艦大和と一緒で、やがて建造費と維持費の海にごぼごぼと沈む。
 ここで国が法律を作って都に出費を強いるという案が出て来たが、その前に憲法九十五条が立ちはだかる――

 「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。」
     *

 懐かしい文言だ。

 ぼくがこれを論じたのは一九九七年四月、駐留軍用地特措法が改正され、国は地主の意思を無視して民有地を米軍用地として永久に借りていられるとなった時だ。これは憲法九十五条に違反するのではないかとぼくは考えた。

 たしかに改正案に「これを沖縄にのみ適用する」とは書いてない。しかし、事実上、適用される場所は沖縄しかない。本土の軍用地はどこももとは公用地なのだ。民有地強奪は沖縄のみ

 更にこの問題の始まりには一九七二年の沖縄返還に際して時限立法で制定された「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」という法があった。名前からして明らかに憲法違反だが「住民の投票」は行われなかった

 同じことが辺野古を巡っても起きようとしている。翁長知事がどうしても協力しない場合、知事の権限の頭越しに基地建設を可能とする特措法が作られるという展開は充分(じゅうぶん)に考えられる。これまた九十五条違反のはずだが

 憲法とは本来このように国民を国の圧政から守るためのものである。一地方を犠牲にして他が利を得てはいけない。個人の権利を守ると同じように地方の権利も守る。

 それが機能しないのは日本国の司法府が憲法判断を逃げているからだ。
 九十五条違反と提訴してもまともな判決は返ってこない。最高裁は砂川判決で、日米安保のような高度に政治的な問題は「その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」という判例を作ってしまったその根底には日本国憲法と日米安保条約の間の矛盾がある。辺野古はそれが露骨に現れる場である。七十年に亘(わた)って変わらぬ米軍支配。
 現代の世界で三権分立は民主主義国家があるべき姿として奨励されている。欧米諸国はどこもその体裁を整えているし、途上国はそれを目指している。経済発展だけでなく国の体制でも彼らは「途上」にあると言える。

     *

 しかし日本では国の根幹に関わる問題で司法府が憲法判断を放棄してしまった。一九九七年の段階で九十五条は死んだ。今は九条が死にそう

 最近になって立法府も死にかけてきた。民意を反映しない選挙制度が一強多弱の体制を生み出し、それにうんざりした国民の無関心が投票率を下げ、全国民の二十四パーセントの票を集めたにすぎない自民党と公明党が絶対多数になった。しかも議員の多くは党の方針に逆らえない若手の陣笠くんたち。かくして国会はヤジと手続きの機関に堕した

 今の日本は行政府の独裁という状態である。
 集団的自衛権についての審議が始まるはるか以前、この四月三十日に安倍首相がアメリカで、この法案の成立を約束し「日米同盟はより一層堅固になる。この夏までに成就させる」と宣言したそれでも国会は立法府を侮蔑するあの発言を問題視しなかった。本来ならばあれだけで内閣不信任の動議が出され、場合によっては解散、総選挙だったはずだが、そよとも風は吹かなかった。国会は行政追認の大政翼賛会と化した。
 既に司法なく、今また立法なし。日本は三権分立で運営される民主主義国家から行政独裁へと、途上ならぬ途下の道を粛々と歩んでいる三脚のはずが一脚では立てない、主権在民という地面に穴を穿(うが)たないかぎり。

 というところまで来て、さすがに理性が働きはじめたか、憲法学者三名揃(そろ)っての違憲論が政権の暴走にブレーキを掛けた。世論調査によれば、安倍首相の説明が不充分だと思っている国民が過半数。実際、あの説明は論旨の骨もないぶよぶよの代物で、公明党も困惑している。

 学者の意見や国民の声で強行採決が阻めるか。それはそれでこの国の成熟を示すものだろうが、三権の方はどう修理すればいいのだろう。

ふたこと:戦争法案が明日可決される。記名投票だろうか、無記名投票だろうか?考えるまでもなく卑怯極まる魑魅魍魎、この名誉ある戦争法案の責任も取れまい。無記名投票か。60日ルールで成立と踏んでいる。民の命と人権がいとも簡単に踏みにじられる。非国民、売国奴の連呼の練習も出来た。異なる意見と人権を抹殺する準備も出来た。度量もない、立たない男に独裁を任せる日本人は阿呆としかいいようがない。

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