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石のつぶやき1034 デジャヴ 19年前と変わらぬ日本 [平成阿房伝]

ふたこと:これは1997年4月7日掲載の論壇である。古い新聞が小屋にあったので棄てようと何気なくみてみると、開いている紙面にこの記事があったのだ。読んでみると今現在のことが書かれているようで、何の違和感もない。デジャヴ・・・。  何ら進歩もない。既得権の上に胡座をかき、傲慢ですらあった原子力村の住人は。この「もんじゅ」の代わりに「フクシマ第一原発」に置き換えれば、その通りであろう。「進歩と調和」、「原子力 明るい未来のエネルギー」の標語だけで、40年を安全の念仏で押し通した。IT革命やイノベーションと掛け声ばかりで、真の科学はもたされなかった。思考停止ぬのままである。そして事故が起こると、津波のせいにする。津波も予測されていたが、TEPCOは対策をとるはずもなかった。何しろ安全なのだから・・・。メルトダウンが危惧されると、言葉の言い換えや、訳のわからぬ専門用語でその場を糊塗する。肝心なことを手当てできずに大爆発を起こして莫大な量の放射能を撒き散らした。これで少しは反省して原発から撤退すると思いきや、電力コストと二酸化炭素削減を標榜して再稼働しかあり得と稼働させる始末・・・。民の声を聞かぬ国家は同じ過ちをくり返す。
4月7日(月)1997年   朝日新聞朝刊

  論壇 平田  周(ひらた しゅう)


日本の危機管理に欠けているもの


 一九九五年一二月に高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故があったばかりの動力炉・燃料開発事業団(動燃)で、再び事故が発生した

 七九年にアメリカでスリーマイル島の原子力発電所事故が起きたあと、筆者は動燃の委託により、アメリカで開発されていた安全解析の手法「確率論的リスクアセスメント」(PRA)を調査研究する機会を持った。PRAは、想定されるあらゆる事故や危険について、発生する確率と被害の甚大さをもとに対策を考えること、事故というものは必ず次々と連鎖的に拡大するものであり、できるだけ初期に、また最も効果的なところで、その拡大連鎖をくい止めてしまうことが必要だとする、二つの基本的な考え方から成る

 世界的に評価の高いこの安全解析の手法は、結局わが国では不人気であった。その原因は、PRAが危険というものは常に存在することを前提にする点にあった。「たとえ一万年に一度という低い確率であったとしても、原子力発電所に飛行機が墜落するリスクはある」とする。しかし、原子力に関しては、たとえわずかであっても危険があると言おうものなら、反対派に攻める口実を与えてしまうという心配があり、関係者は絶対安全だと表明せざるをえない。それがいつのまにか原子力関係者たち自身も、絶対安全でなければならないし、事実安全だという教義に自己暗示をかけられてしまい、リスクを前提に安全性を考えるPRAの手法は無視される運命にあった。

 PRAの手法が徹底していれば、今回の再処理工場の事故であのような醜態をみせることはなかったはずである。リスクアセスメントでは、いくら起きる確率は低くとも、おおよそ考えうる危険はすべてリストアップし、それに起因してどのような事故が連鎖的に起きうるかをシナリオとして想定する。そして各段階での封じ込め措置を考える。

 放射性廃棄物を、アスファルトを加えてドラム缶の中で固化させる際に発熱する。通常はアスファルトの発火点には達しないが、不都合なことが起きれば発火の危険は充分にある。その後十時間もたってから、爆発が室内で起きた。リスクの存在も、危険の連鎖もまったく思考になかったのであろう。事故が公になった後であわててビニールシートを入り口や窓に粘着テープで覆っている風景には、目を覆いたくなった。

 リスクアセスメントの思想に違和感を持つのは、原子力関係者だけではない。無意識にしろ、日本人全体を覆っている。企業や官僚などを巻き込んでいるいくつもの不正事件も、起きるはずがない、起きてはならないという気持ちが国民の間に強い。万が一にも起きる可能性がある、だからそれを防止するためのシステムをつくっておこうという考えは、日本人は抵抗感があるようだ

 欧米との契約では、これから親密な提携関係を結ぶ際さえ、万一、相手当事者が不都合をした場合にはどうするかなど、きわめて具体的な規定を設ける。紛争が起きればいつでも裁判に持ち込んで解決する構えである。しかし、日本流の契約書は「万一問題が生じた場合には、両当事者が話し合いにより円満に解決するものとする」というような穏やかな表現になってしまう。

 それは日本人の優しさかもしれない。だが、危険に優しさは通じない。三月二十四日号の「ビジネス・ウィーク」誌は、最近起きた野村證券の不正事件についての論評の中で「橋本総理はなぜこのような不祥事が続くのだと怒りを露(あらわ)にする。しかし、驚いた顔を見せるのはおかしい。なぜそのようなことが起きるかは、とっくにご存じのはずなのだから」と皮肉っている。

 多くの人たちが、今回の動燃の事故の稚拙さに驚いてみせるが、本当の原因がどこにあるかは、みなよくわかっているのだ。それを言わないことが問題の火種を残す
(IT〈インフォメーション・テクノロジー〉経営研究所長、情報工学=投稿)
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