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石のつぶやき1006 女性自衛官のブログ [平成阿房伝]

第3回 NATOへの来訪者

NATO事務総長特別代表
(女性、平和、安全保障担当)補佐官
栗田 千寿

2015年3月12日

    皆さん、こんにちは。

    こちらに来て早3カ月が過ぎました。来た当初は朝9時でも暗かったのですが、最近はより日が長くなり、通勤時にも朝の雰囲気が感じられるようになりました。冬の灰色の曇り空は相変わらずですが、青空の見える日も増えてきたように思います。春が待ち遠しいです。

    NATO本部はブリュッセルの北東に位置し、少し郊外にあります。周囲にはレストランもお店もありません。その分、敷地内には銀行、スーパー、ジムなどがあります。ベルギーの通貨はユーロですが、NATO敷地内の銀行で両替ができます。この銀行支店内の電光掲示板には7種の通貨の両替レートが表示されていて、その中には、北欧通貨や米ドルに交じって、アジアで唯一日本円が表示されているのです。おかげで、日々のレートが把握できます。たまに用もなくその掲示板を覗き見し、今日も日本は健在だ、と一人喜んでいます。一体この支店で1年に何回円が取り扱われるかは不明ですが、こうしてNATO本部内でも円がユーロに両替できるとあって、我々日本人には大きく門戸が開かれているような気がしています。やはり、NATOにとっては「アジアでは日本が一番」なんだな、と前向きに解釈しています。

    さて今回は、NATO事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)オフィスへの来訪者についてご紹介します。1月のことになりますが、当オフィスにとっては貴重な方々がNATO本部を訪問されました。

    まずは、ラディカ・クマラスワミ氏。彼女は、1996年に女性に対する暴力とその原因及び結果に関する国連の報告書(「クマラスワミ報告」)を担任したことで有名です。その後は、国連事務次長や国連事務総長特別代表(子どもと武力紛争担当)等を務めた人物です。

    今年2015年は、国連安保理決議1325号「女性、平和、安全保障」(2000年)から15周年の節目に当たり、国連は1325号の履行状況に係る総括報告を予定しています。彼女は、この報告の筆頭著者(Lead author)として今年秋の国連での発表に備え、成果収集等のため関係機関を訪問しているのです。NATO本部にはこのたび1月に訪問し、アフガニスタンのジェンダーアドバイザー等を経験した軍人等との懇談に加え、NATO加盟各国やパートナー国等からの参加を得て、1325号の履行状況等について意見交換をしました。私は、光栄なことにNATO特別代表とともにクマラスワミ氏と昼食に同席する機会を頂きました。

    スタッフレベルの私にとって昼食への参加は特例だったので、恐縮しつつではありましたが、もてなしの気持ちだけでもお伝えしたいとテーブルに星や季節の花の折り紙を置いたところ、ちゃんと日本の物だと気づいて下さいました。そして、「自分もアジア出身(スリランカ出身)だから、NATOで日本人が勤務していることに親近感を持った。日本にはジェンダー分野で将来アジアを引っ張る立場を期待している」との言葉を頂きました。女性の処遇には依然厳しい環境の南アジア出身で、またアフリカを始め紛争影響国の現場を数多く見てきたはずの彼女は、とても穏やかで徳が感じられる方でした。NATO本部の訪問はわずか半日でしたが、NATOの取組みと成果についてのインプットを得られたようです。発出予定の総括レポートでは、NATOの取組みだけでなく幅広い成果に触れられることを期待しています。

    そして、この直後にNATO本部の当オフィスを訪れたのは、まさしく地球の裏側からの来客で、日本や自衛隊にとってもなじみの深い方でした。豪州国防軍司令官のビンスキン空軍大将です。この方は、日本通であるとともに日豪防衛協力にも大変熱心な人物です。東日本大震災の発災直後、当時豪州空軍本部長だったビンスキン司令官は、岩崎元統合幕僚長(当時航空幕僚長)に直接電話で「豪州空軍のC-17を送る」と派遣を申し出たとのエピソードが残っています。今回お会いした際、岩崎元統幕長がC-17のエピソードに繰り返し言及されていたことや、日豪防衛協力の重要性等についてぜひ言わねば!と張り切っていたところ、ビンスキン司令官は私の話をひとしきり聞いて下さり、「ロッキーとは昨日もメールしたよ」とさらりと言われました。そうでした。岩崎元統幕長とはニックネーム(パイロットのタックネーム)で呼び合う懇意の仲なので、今でも個人的なやりとりを続けられているようです。

    ビンスキン司令官のNATO本部訪問は、NATOの国軍司令官会議への参加のため。これはNATO各国の軍人トップが一堂に会する会議です。豪州はNATO加盟国ではないのですが、アフガニスタンのISAFに部隊を派遣していた関係で、NATOのパートナー国かつ兵力貢献国として豪州軍司令官もこの会議に参加したのだそうです。この会議の後、豪州側からの要望でスクールマンNATO特別代表(女性、平和、安全保障担当)とビンスキン司令官の懇談が実現しました。

    豪州は、「女性、平和、安全保障」にも積極的に取り組んでおり、アフガニスタンに軍人のジェンダーアドバイザーを派遣した実績もあります。ちなみに豪州陸軍本部長(陸軍トップ)のモリソン中将は、2013年以降、国際会議等を通じて、性的暴力に反対するコメントを公表しています。同分野の取組みが進んでいる欧州の各国と比べても、軍高官(男性)による明確な発言という部分では豪州は進んでいると言えます。「レイプは許さない」と男性が明言するからこそ、この対外発信は効果的なのです。しかも、武力集団である軍のトップクラスの発言は、軍人だからこその重みと軍内部の意識改革の面でも大きな意義があるようです。

    今回の豪州からの軍高官の訪問は、当特別代表にも大きなインパクトを与えたようです。「ジェンダーの問題は、しばしば女性のものだとみなされがちだが、男性特に軍高官の理解を得た場合は、当該軍内外に対する大きな効果が期待できる」ということを体感した形です。性的暴力対応への軍の取り組みは、性的暴力が問題になっている地域で当該国軍と共に活動する他国軍等に対する影響力につながります。軍→軍でのアプローチが容易になり説得力が増すという意義もありますし、トップダウン形式で軍内部への浸透を図れるという意味からも、軍高官がジェンダー視点を持ってこの問題に取り組むことは重要だと言えるでしょう。

    ちなみに、国連では今年1月15日、「バーバーショップ会合」というジェンダー関連の会合が開催されました。ジェンダー平等の問題に関し、男性の視点から考えようという趣旨の会合です。当特別代表のFacebookページでも紹介されました。「バーバーショップ(床屋)」って、いかにも男性ばかり、という言葉です。そしてこの会合の発想は面白いですね。インターネットで、この会合でのスピーチの映像が見られるのですが、「真の男性は女性を怖がらせたりはしないものだ」というくだりには、思わずうっとりしました。

    そして、うちの特別代表は、「バーバーショップをNATOでもできないかしら」という思いからか、「バーバーショップ」という単語を一時期連呼していました。私まで、町でバーバーショップの看板を見るたび、彼女の喜びようや会合のことを連想して、つい笑ってしまうようになりました。

    ちなみに、ビンスキン司令官の副官(秘書官にあたる存在)は女性軍人です。私は以前、岩崎元統幕長の随行で東南アジアの国際会議に参加したことがありますが、この時各国軍トップの副官は男性ばかりで彼女は唯一の女性副官だったことを思い出しました。「ダイバーシティ(多様性)」を重視する豪州軍はこんな面でも先進性を発揮しているようです。NATOの各国軍ではどうなっているのか未確認ですが、各国の女性軍人の比率や女性高官の輩出状況などの状況や、NATOとしての働きかけなど、これから調べてみようと思います。

    さて次回は、スウェーデン軍のジェンダー教育についてご紹介します。またぜひご来訪くださいね。


タグ:ジェンダー
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